あくまで、「インコタームズで稼ぐ方法」でも「インコタームズで集客倍増」でもなく、「インコタームズを使う」ための解説です。貿易に興味のある方、もしくは貿易実務初学者向けの内容になります。
貿易実務の仕事をしていて、もしくは資格試験の勉強をしていて必ず目にするのがこのインコタームズ。関連書籍(特に入門書)を読んでも通りいっぺんの解説しかされていないため、学んだところでいまいちなんのためにあるのかわからない。
「ということは、使い方ってあんまり必要ない?」と思いつつ(事実世界中の人のうちの貿易関係の仕事をしていない99%方々にはその人生において全く必要のない知識ですし)、自分が思う「インコタームズの使い方」をまとめたいと思います。
インコタームズとは?
インコタームズ(INCOTERMS)はInternational Commercial Termsの略称で、国際商業会議所(ICC:International chamber of commerce)が制定した貿易取引規則のこと
商品輸送中に発生する「cost」と「risk」を、「seller」と「buyer」でそれぞれどこからどこまで負担するか、商品引き渡しの発生する場所を基準に条件化し定めたもの
国際条約ではないので強制力はなく、当事者の合意によって取引条件として効力を発揮する
だいたいどの本にもインコタームズの説明については、同じようなことが書いてあります。だいたいどの本でも触れられているのは上記3点でしょうか。特に最初のインコタームズが略称なんですよというところはほぼ全ての本に書かれています。
こういう略語が多いのが貿易実務をとっつきづらくしている要因の一つだと個人的に思います。かと言って日本語の貿易用語はわざとわかりにくくしているのでは?と思えるくらい漢語だらけなので(invoiceが「商業送り状」、port of destinationは「仕向地」)、とりあえず貿易用語は英語で覚えてしまうのがオススメです。
インコタームズの規則
ここでは、わかりやすい3種類を紹介します。某貿易振興機構では海上輸送においてオススメされていませんが、理解しやすさを優先しています。規則自体は全部で11個もありますが、この3つがわかればあとは2秒で応用できます。
手元にレゴがあったので、レゴで説明します。
EXW(Ex works)
テーブルに置かれた赤いブロックはrisk負担、濃い緑はcost負担の範囲になります。色の濃いレゴはbuyer側の負担する範囲です。一番左がseller側倉庫で、貨物は左から右へと流れていくものとしてみてください。
EXWは工場渡し条件のため、国内輸送からbuyerの倉庫に納品するまで、全てのcostとriskをbuyer側が負担します。
FOB(Free on Board)
色の薄いブロックが出てきましたね。ピンクはsellerのrisk範囲、黄緑はsellerのcost範囲です。FOBではそれぞれの負担範囲がクレーンのあたりで切り替わっています。正確にいうと、港で船に積み込んだら切り替えです。riskとcostの負担範囲はbuyer側に移ります。
CFR(Cost and Freight)
こちらはどうでしょう。FOBの時と比べて黄緑が増え、seller側のcostの範囲が伸びていることがわかります。
このような負担の切り替えポイントと、どの範囲をどちらが負担するかという条件のバリエーションの寄せ集めが、インコタームズです。
それで?っていう話
つまりどの条件を選ぶかは、商品の値決めとスケジューリングに関わる問題になります。
どの条件を選ぶかによってコストが変わってくることは言うまでもないですが、買い手(輸入者)はFOBを選択すれば自分で船会社を選べるため貨物の到着スケジュールを把握、コントロールすることができ、CFRを選べばコンテナ船のスケジュールは把握できなくなります。入庫から先、製造や販売のスケジュールにも影響を及ぼすかもしれません。
つまりインコタームズとは、戦略的に海外ビジネスを行うための交渉ツールです。
まとめ
今回はインコタームズについて、ざっくりと書いてみました。
貿易条件の選択が、決済通貨・費用計算のみならず、お客さんに提供するサービスの質にも影響を及ぼすことになるため、契約において非常に重要な要素となります。
貿易実務の仕事は、確かにやっているうちに覚えてしまう作業が多いです。それこそ2年とか3年かければ一通りの作業はこなせるようになります。
しかし、その作業の理由や目的について知ることで、実務者としてできることの幅が広がります。大切なのは、それがなんのためにある規則なのかを知り、それによって何が起こるのか、自分はどのように対処すればいいのか、そうやって自分にできることのバリュエーションを増やしていくことじゃないかなと思います。