こんにゃくいつ食べる?

これまで何の疑問も持たずに、こんにゃくを食べてきた。

おでんなどに入っている何となく普通の灰色というかひじきの混ぜ込まれた弾力のあるこんにゃくは、味の滲みも悪いし、食べても味わいにかけるし、つかみどころがないという認識しかなかったけれど、最近食べた刺身こんにゃくが思いのほか印象深かったので、こんにゃくについて調べてみることにした。

と言ってもやはり刺身こんにゃくもこんにゃくであるので、その認識としても、緑色で(アオサが練りこまれている)普通のこんにゃくよりちょっとプルプルひんやりしていて、普通のこんにゃくよりさらに箸で掴みづらく、普通のこんにゃくと違って酢味噌をつけていただくものだと思って食べてきた。

が、どうやらいろいろ調べてみると、刺身こんにゃくにもいろいろと種類があるらしい。

まず一つが、やまふぐ。

こちらは手順は普通のこんにゃくつくりと同じであるが、3割ほど水を減らし、こんにゃくを練る時間を多めにする。灰汁(あく)は普通のこんにゃくの倍量を入れて(こんにゃくは水で練ったこんにゃく粉に灰汁を入れないと固まらない)よくかき混ぜる。

たしかに山のフグとはよく言ったもので、フグだと思って食べれば食感もフグに思えてくる。薄く切ればフグに見えないこともない。フグを食べたことはないけれど。

もう一方は、とろさし。

こちらは逆に水の量を2、3割多めにする。こんにゃくを練る時間も多めにする。灰汁を溶く水の量も3割程度多くし、よく練る。

こちらはやまふぐと対照的にモッチモチのプルンプルンな食感が心地よい。トロのように口の中でとろけるようなことはないけれど(こんにゃくだから)、先日食べた刺身こんにゃくは自然に囲まれて水も綺麗な三重県飯高町で作られた「とろさし」だったので、まるで清流を食べているかのような気分になれた。

こんにゃくはいつ頃日本に入ってきたかは定かではない。国内に野生のこんにゃくは生えていない。

こんにゃくが日本に持ち込まれたのは、縄文時代にサトイモと一緒に入ってきた説や、仏教と共に入ってきた説があり、またどちらも本当っぽいから悩ましい。こんにゃく芋はサトイモの親戚だから一緒に日本に入ってきたと言われればそんな気もするし、こんにゃく芋は薬効(砂出し)があり、元は精進料理として受け入れられこれは仏教に繋がりがあると言われればそんな気もする。ボーズミート(坊主肉)として肉の代わりに食べていたのではないかと想像する。

こんにゃくの花を取り囲む苞(ほう)の部分は仏焔苞(ぶつえんほう)と呼ばれ、他のサトイモ科の植物にも見られる。これは花びらではなく葉が無数のつぼみを取り囲んだもので、仏焔苞自体はシュッとしたラフレシア(同じく不気味な見た目をもつ東南アジアやマレー半島に生息する巨大花)に見えなくもないが、全く異なる。

珍しいこんにゃくとしては、赤こんにゃくがある。滋賀県近江八幡のあたりにしか売っていないと言われるこんにゃくで、三二化鉄を入れて赤くしているらしい。実際に近江八幡へ行くとスーパーに色々な種類が売られていた。あく抜きのために茹でて皿に乗せるとレバーのような見た目で、そういえば台湾の夜市で食べた豚の血のケーキなるものがあったなとふと思い出した。それはもち米に豚の血を混ぜて固めて、蒸しあげ、ピーナッツ粉をまぶしたもので、一度食べたけれど味はそんなに記憶に残っていない。

それとおなじで、この赤こんにゃくにもピーナッツ粉をまぶして食べたら美味しいんじゃないかとちらっと思ったけれど、まだ試していない。ピーナッツ粉だけだと味が物足りないからと味噌なんかつけたら田楽になってしまう。

赤こんにゃくを買ったお店に置いてあったチラシには赤い鎧が描かれていたし、かの織田信長がこんにゃくを赤く染めさせて作らせたという話も、なんとなく本当っぽいなと信じられるような話であった。

兎にも角にもいろいろなこんにゃくを食べ比べてみて、こんにゃくの美味しさは水の美味しさであるように思う。和紙の品質にはそこに見えない水の綺麗さが影響するように、ちょっと見た目では想像しにくいこんにゃくで固定化された水というものが、その美味しさを左右しているように思う。味を染み込ませて食べるのも美味しいけれど、やはりそのままちょっと生姜醤油をつけて食べても美味しかった。

参考文献

『新特産シリーズ コンニャク–栽培から加工・販売まで』 群馬県特作技術研究会 農文協

『コンニャクと生きる 信州と上州の山里をつなぐ』 里見哲夫 柏企画

『芋と近江のくらし』 滋賀の食事文化研究会編 サンライズ出版

切ったとろさし


切ったやまふぐ


生姜醤油


からし酢味噌


あく抜きした赤こんにゃく