愛を込めてスパイスを。

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以前かりんとうの記事を書いた時、少しだけ唐辛子の話に触れたけれど、あれから少し気になって色々と唐辛子について調べてみた。

手元にある『The whole seed catalog』を見ると、色も様々なホットペッパーたちが70種以上紹介されている。色もただの赤だけではない。紫の小さいナスのようなものから(唐辛子はナス科唐辛子属)、深い茶色にただれた悪魔の皮膚のような見た目のものもある。

ハラペーニョなどはタコスの付け合わせにアメリカでよく食べられるし、獅子唐辛子は日本のホットペッパーとして、そこまで辛くなく、天ぷらやその他伝統的な料理に使われると書かれている。

唐辛子を食べるとカラい、もしくは熱いと感じるが、実際に唐辛子が口の中でヒートテックしているわけではない。大雑把に書くと、カプサイシンが口の中の神経に対して「(本当は熱くなってないけど)熱くなってるぞ!大変だ!熱いぃぃ!」と勘違いさせているにすぎない。そうやってこの植物は他の哺乳類に食べられないようにしてきたのだ。ただし鳥だけは例外で、糞の中にタネを潜り込ませて広範囲に撒き散らしてもらうため、鳥には唐辛子の辛さは通じないようになっている(らしい)。

また、この辛さ成分は油に溶けるため、油分のあるものを一緒に食べると辛さが軽減されると本に書かれている。そうかそれならと早速スーパーへ行ってバニラアイスとチーズと生唐辛子を買ってきて、唐辛子をぽりぽりかじりながらそれぞれバニラアイスとチーズと、比較対象として水を口に含んで食べ比べしてみたけれど、結果的にはこれまでやった中でもっともツラい食べ比べになったとだけ報告しておきたい。良い子はやっちゃだめだぞ。

諸説あるけれど、唐辛子が日本へ持ち込まれたのは16世紀とされており、どうやら南蛮(ポルトガル)からきた説と高麗(朝鮮半島)から来た説がある。その後江戸時代中期になって日本で生み出されたのが七味唐辛子。「からし屋中島徳右衛門が、江戸両国薬研掘(やげんぼり)に店を開き、売り出したのが最初だとされ」る。

ベーシックな七味唐辛子の組み合わせは地方やお店によって異なるので一概には言えないけれど、例えば資料がある中で「八幡屋礒五郎」の七味唐辛子の原料に使われていたのは(情報が古いけれど)、唐辛子(鷹の爪)、ごま、山椒、シソ、麻の実、陳皮、生姜の7つ(1984時点)。これに地方によって例えば麻の実の代わりに海苔やケシの実を使ったりしていたらしい。

これが今では八幡屋礒五郎のウェブサイトを見ると原料のバラエティも増え、エゴマや島こしょう、ゆずはもちろんのこと、コリアンダー、パセリ、シナモンなど和洋問わず原料として使われていることがわかる。

かつて縁日の露店や大通で客の好みに応じて即席に調合して売っていた販売形式は、今も例えば八幡屋礒五郎本店で行われている。実際にお店で他の人が調合してもらう様子を見ていたけれど、初めはまるで漢方の薬剤師との問診のように思えたやりとりの中、店員さんが「一度香りを確認していただいていいですか」と調合中の七味唐辛子をお客さんに差し出すのを見て、これはもしかしたらフラワーショップで花束を作ってもらっているのに近いのかもしれないと思った。

調合された七味唐辛子を様々な香りに彩られた花束だと考えれば、蕎麦や冷奴にかけるだけでは勿体無いような気がしてくる。七味唐辛子の香りは恋と同じで、繊細で風の中にすぐ飛んで行ってしまい、いつまでも残っていてはくれない。だから料理に香りの彩りを添えて、その一瞬のきらめきを楽しむのがいい。ステーキやペペロンチーノに、ほんの少しでもかけたら、口の中でどんなスパークが起きるだろうか。

参考文献

『トウガラシ大全 どこから来て、どう広まり、どこへ行くのか』 スチュアート・ウォルトン 草思社

『トウガラシの世界史 辛くて熱い「食卓革命」』 山本紀夫 中公新書 

『八幡屋礒五郎の七味唐がらし』 藤田靖夫 信州の旅社

八幡屋礒五郎本店
牛に引かれて善光寺